「社員全員が納得する、平等で優しい人事制度を作りたいんです」 人事制度の再構築プロジェクトに入る際、経営陣からこのようなオーダーを受けることが多々あります。しかし、私はそのたびに彼らの甘い幻想をバッサリと切り捨てます。人事制度において「平等」を目指した瞬間、あなたの会社は確実に崩壊への道を歩み始めます。
頭の良い経営者やマネージャーであれば、「成果を出した人と出していない人が同じ評価(平等)ではダメだ」という理屈は百も承知のはずです。それでも、実務の現場では全員が「B評価(標準)」に丸め込まれ、一律のベースアップが行われるような「平等な制度」が量産されています。
なぜ、わかっているのに平等にすり寄ってしまうのでしょうか? その根本的な原因は、経営陣や評価者が抱える「退職恐怖症」にあります。昨今の凄まじい採用難のなか、パフォーマンスが低い社員であっても、「ここで厳しい評価(C評価など)をつけてへそを曲げられ、退職されたら今の業務が回らなくなる」という強烈な恐怖があるのです。
波風を立てて離職されるのを恐れるあまり、誰も傷つかない「優しい平等な評価」を下して、その場しのぎの組織運営を行ってしまう。これは、マネジメントの職務放棄に他なりません。
底辺の社員を引き留めるために平等を貫いた結果、その代償は誰にいくのでしょうか。それは、他の誰よりも汗をかき、会社に莫大な利益をもたらしている「優秀なエース社員」です。
自分が死に物狂いで強敵を倒し、高い成果を出したにもかかわらず、隣で適当に仕事をしている社員と「平等」な給与や賞与しか与えられない。この現実を見た瞬間、エース社員のエンゲージメントは音を立てて崩れ落ちます。
「この会社は、頑張るだけ損をする仕組みになっている」 そう悟った優秀な人材は、上司にクレームを入れることもなく、静かに退職の予兆を見せ始めます。そして、自分の価値を正当に評価してくれる別の会社へと、あっさりと離職していくのです。
辞められたくないから平等を貫いた結果、絶対に辞めてほしくなかった一番優秀な人材を失う。これこそが「平等」という甘い毒が引き起こす最大の悲劇です。
会社は、社員全員を同じように幸せにすることはできません。真の離職防止とは、全員を無理に引き留めることではなく、「自社が求める成果を出した人間が、最高に熱狂できる環境を作ること」です。
そのためには、平等ではなく「公平」なルールを組織にインストールする必要があります。 機会は全員に等しく与えるが、結果(成果)に対しては残酷なまでに差をつける。S評価の社員には青天井で報い、C評価の社員には厳しいフィードバックを突きつける。その結果として、評価に不満を持った低パフォーマーが退職を選んだとしても、それは「会社が次のフェーズに進むための健全な新陳代謝」として受け入れる覚悟が必要です。
エンゲージメントとは、生温い優しさの中で育つものではありません。自分の出した価値がノイズなしに正当に評価される「シビアな公平さ」の中でこそ、真に優秀な人材の心は会社に結びつくのです。