採用に数百万かけて「出口」を放置する矛盾。エンゲージメント調査では見抜けない退職の“予兆”と真の離職防止策

「最近、優秀な若手が立て続けに辞めてしまって……。何か即効性のある引き留め策はないでしょうか?」 人事コンサルタントとして多くの企業の経営課題に向き合う中で、最も多く寄せられるのがこの相談です。しかし、このようなご相談を受けるたび、私は残酷な事実を突きつけることになります。「社長、社員から退職を切り出された時点で、何を言っても手遅れです」と。

企業における人材マネジメントの最大の矛盾は、「入り口」と「出口」の圧倒的な投資ギャップにあります。

なぜ企業は「入り口」にだけ課金するのか

多くの企業は、採用という「入り口」には湯水のようにお金を使います。採用媒体の掲載費、エージェントへの高額な紹介手数料(年収の30〜35%)、さらには採用ブランディングのための動画制作など、一人を採用するために数百万円を投資することは珍しくありません。

しかし、それほど苦労して獲得した人材の流出を防ぐ「出口(離職防止)」には、驚くほど無頓着です。穴の空いたバケツに必死で水を注ぎ込み、「最近の若手は定着しない」と嘆いているのですから、実務家の目から見れば滑稽としか言いようがありません。

エンゲージメント調査が「離職」を防げない理由

「いや、うちの会社は毎月エンゲージメントサーベイを実施して、組織状態をモニタリングしているから大丈夫だ」と反論する人事担当者もいます。確かに、組織のエンゲージメントを高める取り組み自体は素晴らしいことです。しかし、離職防止という観点において、エンゲージメント調査は決して万能ではありません。

なぜなら、アンケートという手法は「本音」を映し出さないからです。 もしあなたが会社に見切りをつけ、水面下で転職活動をしている社員だとして、実名や所属部署が特定される社内アンケートに「不満がある」「辞めたい」と正直に書くでしょうか? おそらく、波風を立てないよう「普通」や「やや満足」にチェックを入れ、ひっそりと退職の準備を進めるはずです。

言葉やアンケートの回答は、簡単に嘘をつけます。エンゲージメントのスコアが高く出ているからといって、離職リスクがないと安心するのは極めて危険な兆候なのです。

退職の「予兆」は、必ず行動データに現れる

言葉が嘘をつくのなら、経営者や人事はどこに目を向けるべきなのでしょうか。その答えは「行動データ」です。

人間は、心が会社から離れかけると、無意識のうちに必ず行動にエラーや変化(サイン)を出します。

  • これまで完璧だった勤怠に、微細な遅刻や欠勤が混じるようになる。
  • チャットのレスポンスが極端に遅くなる、あるいはスタンプだけで済ませるようになる。
  • 有給休暇の消化パターンが急激に変化する。

これら一つひとつは些細な変化ですが、点と点が線になった時、それは明確な「退職の予兆」となります。離職というものは、ある日突然起こるわけではありません。必ずその前に、本人が発している声なきサインがあるのです。

恋も離職も「タイミング」が全て

退職を防ぐための絶対的な法則。それは「恋も離職も、タイミングが全てである」ということです。

社員が覚悟を決めて「退職させてください」と別れ話を切り出した時点で、給与交渉をしようが異動を提案しようが、99%元サヤには戻りません。真の離職防止とは、退職届を出される前、つまり行動データから「予兆」を検知した絶妙なタイミングで、非常事態の1on1などの適切なアプローチを打つことです。

エンゲージメントという言葉に踊らされず、社員のリアルな行動に目を向けること。それこそが、人材流出を防ぎ、強い組織を作るための唯一の道なのです。